เข้าสู่ระบบ夜は、火が大きく見える。
源三さんの言葉は、何度聞いても嫌なほど正しかった。
喫茶こもれびは、いつもより早く閉めた。
営業中の札は裏返され、準備中になっている。
店先の五つのトマトは、外灯の下で黒っぽい赤になっていた。
火ではない赤。
食べられる赤。
そう何度も言い聞かせないと、今夜は赤いもの全部が火に見えそうだった。
カウンターには、スマホ避難箱。
その横に白湯のポット。
証拠の箱は棚の下。
名前の箱は、その隣。
昨日の感情メモは、名前の箱の横に置いてある。
『燃えればいいと思った。
でも、火にはしない。』俺の字だ。
自分で書いたく
第66話 誰の味方ですか【真柴さんは、誰の味方ですか】 その文字が、閉店後のこもれびに残っていた。 白湯の湯気は薄い。 店先のトマト六地蔵は、夜の暗がりでほとんど見えない。 スマホ避難箱はカウンターの真ん中。 証拠の箱は棚の下。 名前の箱は、その隣。 そして、こはるのホワイトボードには、消されない問いがある。【真柴さんは、誰の味方ですか】 画面の向こうで、真柴さんはすぐに答えなかった。 それは、誤魔化している沈黙ではなかった。 たぶん、正しい言葉を選んでいる沈黙だった。 いや、正しい言葉というより、嘘にならない言葉。 こはるは、ホワイトボードを胸の前に持ったまま、じっと画面を見ている。 芽衣はみかんの皮を片づける手を止めていた。 源三さんは新聞を畳んだまま、膝の上に置いている。 俺は、洗いかけのカップを持ったまま立っていた。 水が指先を伝って、袖口に少し入った。 冷たい。 でも、拭く気になれなかった。 誰の味方ですか。 それは、簡単な問いに見える。 味方か。 敵か。 でも、今の俺たちは知っている。 人間は、そんなに簡単に分けられない。 資料は資料。 人は人。 疑いは疑い。 信じるか、信じないかだけではない。 味方か、敵かだけでも、きっとない。 だが、こはるは聞いた。 聞かなければならなかったのだと思う。 月乃こはね公式。 事務所上層部。 契約。 所属
第65話 所属タレントの信用 信用という言葉は、やけに綺麗な顔をしている。 誠実そうで、正しそうで、会社の会議室に置いても浮かない。 契約書に入っていても変ではない。 公式文に書かれていても、誰も怒らない。 でも、その言葉が人間の首にかかると、急に重くなる。 昨日、俺たちは疑いを別々に置いた。【資料は資料】【人は人】【疑いは疑い】 古い夜更かしを疑った。 でも、全部敵にはしない。 真柴さんも、事務所側も、候補から外さない。 でも、真柴さんを敵と決めつけない。 そうやって、何とか火を小分けにした。 水漏れなら元栓を見る。 濁っている水はすぐ毒とは決めない。 でも飲まない。 待つ火にはみかん。 昨日は、ずいぶん変な結論の多い日だった。 そして今日、事務所から来た言葉は「所属タレントの信用」だった。 朝のこもれびは、まだ普通の顔をしていた。 店先にはトマト六地蔵。 八百屋の親父さんが「今日は増やさん」と宣言して帰っていった。 増やさないことを宣言される店というのも、なかなか珍しい。 こはるは窓際の席に座り、白湯を飲んでいた。 今日は少し眠そうだ。 昨日、疑いの話をしたせいだろう。 眠れたのか、と聞くと、ホワイトボードにこう返ってきた。【寝ました】【途中で起きました】【また寝ました】【睡眠、分割払いです】「睡眠をローンみたいに言うな」【でも、少し払いました】「まあ、払ったならいいか」 源三さんが新聞の向こうから言う。「睡眠は一括がいい」
第64話 誰が漏らしたのか 疑いは、夜より朝の方が厄介だ。 夜は火が大きく見える。 それは本当だ。 だが、朝は火が消えたふりをする。 明るいから大丈夫だろう、と思わせる。 店先にトマトが並んでいて、商店街のシャッターが開く音がして、日向弁当から揚げ物の匂いが流れてきて、普通の一日が始まったような顔をする。 そのくせ、胸の奥には昨日の火種が残っている。 誰かが漏らしている。 古い夜更かしのDMにあった、その一文。「神谷さん側、資料が出る可能性を知っているかもしれません。誰かが漏らしています。」 誰か。 その二文字が、一番嫌だった。 神谷レン、と書いてあれば怒れた。 暴露系A、と書いてあれば憎めた。 事務所、と書いてあれば疑えた。 古い夜更かし、と書いてあれば、たぶん俺は裏切られた顔をした。 でも、そこには「誰か」としか書かれていない。 誰か。 広すぎる。 広すぎる疑いは、人間の頭の中で勝手に増える。 こもれびのカウンターを拭きながら、俺は考えていた。 古い夜更かしか。 いや、あいつは資料を送ってきた側だ。 でも、昔は火の近くにいた。 周辺の誰かとまだつながっていてもおかしくない。 古い夜更かしの周辺か。 資料は、彼が直接取得したものではないと言っていた。 昔の切り抜きチーム周辺にいた人物から回ってきたログの再共有。 その「周辺」が漏らした可能性はある。 真柴さんの事務所側か。 昨日、月乃こはね公式が動いた。 事務所上層部も匿名ラジオ側の動きを警戒し始めている。
第63話 誰かを責めるためではありません、再び 夜は、火が大きく見える。 源三さんの言葉は、何度聞いても嫌なほど正しかった。 喫茶こもれびは、いつもより早く閉めた。 営業中の札は裏返され、準備中になっている。 店先の五つのトマトは、外灯の下で黒っぽい赤になっていた。 火ではない赤。 食べられる赤。 そう何度も言い聞かせないと、今夜は赤いもの全部が火に見えそうだった。 カウンターには、スマホ避難箱。 その横に白湯のポット。 証拠の箱は棚の下。 名前の箱は、その隣。 昨日の感情メモは、名前の箱の横に置いてある。『燃えればいいと思った。 でも、火にはしない。』 俺の字だ。 自分で書いたくせに、見るたびに少し胸が痛くなる。 でも、消さない。 消したら、たぶんもっと悪い形で戻ってくる。 こはるは窓際ではなく、今日はカウンターに近い席に座っていた。 白いパーカーの袖を、指先まで引っ張っている。 膝の上にはホワイトボード。 隣に白湯。 声は使わない。 昨日、俺の名前を呼んだ声は、まだ俺の耳に残っている。 でも、今日はその余韻に浸る日ではなかった。 神谷レンが配信する。「今夜、最近の件について少しだけ話します。誰かを責めるためではありません」 その予告文だけで、こもれびの空気は少し冷えた。 芽衣は日向弁当から戻ってきていた。 補給袋は今日二回目だ。 中身は、焼きおにぎりの残りと、
第62話 出せば終わると思った 出せば終わると思った。 いや、正確には、出せば終わってほしかった。 昨日、古い夜更かしから届いた資料。 暴露系Aと神谷レン側の現在の連絡ログらしきもの。 そこには、俺たちの言葉が「材料」として扱われていた。「白湯側が声明出した」「周辺で疑問形にして投げる」「本人は心配ポジ維持」「“対話拒否”と“証拠ちらつかせ”の線でいける」「“個人同士の連絡や対話を材料にするな”はこっちに刺さるから、先に“説明責任”で上書き」 心配ポジ。 説明責任で上書き。 疑問形にして投げる。 それは、人間の言葉というより、広告の配置図みたいだった。 誰かの苦しみがある。 それをどう切るか。 どう置くか。 どのタイミングで出すか。 本人は触れない方がいい。 周辺で投げる。 疑問形にする。 心配の形にする。 吐き気がした。 それと同じくらい、胸の奥が熱くなった。 怒りだ。 ずっと昔から、俺の中に置きっぱなしだった怒り。 クロユウとして炎上した時、俺は怒ることすらうまくできなかった。 怒れば「逆ギレ」と切られる。 黙れば「逃亡」と切られる。 説明すれば「言い訳」と切られる。 謝れば「やっぱり悪かった」と切られる。 何をしても、切られた。 切られて、並べられて、見世物にされた。
第61話 後戻りできない資料 翌朝、俺はこはるの顔をまともに見られなかった。 理由は分かっている。 昨日の夜、こはるが俺を呼んだ。「……悠斗さん」 たった五文字。 声としては、かすれていた。 小さかった。 たぶん、配信で使っていた月乃こはねの声とはまるで違う。 それでも俺には、耳の奥に残るには十分すぎた。 朝、コーヒー豆を量っている最中にも思い出した。 カップを洗っている時にも思い出した。 店先の五つのトマトを見た時にも、なぜか思い出した。 五つのトマトと「悠斗さん」に何の関係があるのかは分からない。 ただ、思い出した。 人間の脳は、時々まったく関係ないものを同じ箱に入れる。 たぶん今の俺の頭の中には、「白湯」「トマト」「悠斗さん」「照れ逃げ顔」が一緒の棚に入っている。 最悪だ。 こはるも、明らかにおかしかった。 窓際の席に座っているが、いつもより少し姿勢が硬い。 白いパーカーの袖を指先まで引っ張り、ホワイトボードを膝に乗せている。 俺が白湯を置きに行くと、彼女は一瞬こちらを見て、すぐ目をそらした。「白湯、置いとく」 俺が言うと、こはるは小さく頷いた。 そして、ホワイトボードに書く。【ありがとうございます】 いつもの文字。 いつものやり取り。 なのに、昨日の声が間に挟まっているせいで、どうにも落ち着かない。 俺は意味もなくカップの向きを直した。 こはるも意味もなく白湯のカップを少し回した。 二人して、白湯の周りで不審







